サンディエゴ。

  • 2015.03.17 Tuesday
  • 00:56
中学生だった頃、私の部屋の窓を激しく叩くものがいた。私はFMでエアチェックしたビートルズのアルバムに聴き入っていたので嫌々窓をあけると、知らないおっさんのような青年が立っていた。彼は隣の中学校の学生であり、友人の知人にこの住所のこの窓を叩けば、私のような人間がでてくると教えられたらしい。私はこのおっさんのような青年の人相がたいそう悪いため、もしかすると殴られたりカツアゲされたりするのではないかと怯えたが、そのおっさん青年は唐突に「おまえギター弾けるんだろ?」とおっしゃられた。有無を言わさずに部屋にあがりこんできた青いおっさんは、私にギターを弾いてみてくれと煩く言うものだから、私は覚えたてのビートルズのバースデイとデイトリッパーのリフを弾いた。すると今度は「おまえ自作の曲作ったんだってな?聞かせろよ」とおっしゃられたので、私は恥ずかしかったが、先週友達の吉田くんが貸してくれたカシオトーンのようなファミリーキーボードで作った、マンボのようなリズムに、ニューオーダーに影響を受けたシンセベース風のベースラインに、ダサいカッティング、痛いボーカルが吹き込まれた楽曲を聴かせた。これらは所有のダブルカセットコンポのマイク入力とマイクミックス機能を使用し、何度もピンポン録音したものだ。曲名は「サンディエゴ」で、その曲名からもその楽曲が救いようのないものであることがわかるだろう。「サンディエゴ」だからサーフィンとかアメリカの西海岸のようなウェストコーストサウンドならまだ理解もできるが、マイナーで単調なシンセポップで、歌詞が「僕はデジタルぅー、君には届かないぃーっ」というもので、もう何もかもが沈みきっていて、まるで光るものがない、才能のかけらも感じられない、とにかく歌詞とメロディがこの世のものとは思えないほどひどい、ある意味「怪作」とも呼べなくはないが、とにかく題名が「サンディエゴ」である。思い出したくもない奇跡の愚作ではなかろうか?



「サンディエゴ」を聞き終えた青おっさんはしばらく無言だった。あぐらをかいてわなわなと下を向いていたのだが突然に「感動した!おめーすげーよ!今からおれん家きてくんねーか?」とおっしゃられたので、自分も少し褒められて嬉しかったので行くことにした。



あおっさんの家はなんかだだ広い畳の大広間で、あおっさんは彼の所有するギターを出して見せてくれた、それは見事なまでに昨日拾ってきたようなボロいフォークギターで、三千円くらいで当時購入できたコンタクトピックアップが付いていた。僕らの時代にはこのようなピックアップから得られる出力をミニコンポやラジカセのマイクインに接続して、独特のスカムサウンドを奏でたものだ。なぜこのことについて私の評価が甘いかについては、私もそれと同じことをその一年前にはやっていたからである。当時私たちの街には楽器に関する情報が少なく、近所の「和歌」というレコードショップ(当時のレコード屋にはなぜかギターが数本と弦や楽譜が売られていることが多かった)のおじさんが、そのようにすればエレキの音がフォークギターでだせると少年たちに語っていたからだ。その時代の多くの家庭にはなぜか「氷の世界」のLPと、変なフォークギターがある場合が多く、その息子たちは親の変なギターを譲り受けることになったのだ(私の場合はダイナミックダイクマの正月限定セールで開店前から並んで入手した五千円のヤマハであったが・・)。そして近所の多くの中学生は和歌のおじさんの偽りの言葉の犠牲になり、オーディオ装置からフカフカのギターサウンドを出力していたのである。さて、青っさんだが「今からおれが作った曲を聴かせるから、その前にチューニングをするから待ってケロ」と、あぐらをかいてそのイビツなフォークギターを構えた。そしてこの後の衝撃を私は一生忘れることができないだろう。こうして30年以上がすぎた今でもその有様をリアルに感じ取ることができるし、こうして今も思い出してそれを書き留めているような状態である。よほどのことであったのだ。青さんはまず口に出して「どぉ〜っ!」と発音し、その「どおぅーっ!」に5弦3フレットの音を合わせ始めた。絶対音感なのか?と身構えたのもつかの間、青さは次に最初の「ど」よりも明らかに1オクターブほど高い部類の音階で、全く前の「ど」とは結びつくことない音階で「れぇぇぇええっつ!」と叫んで4弦の開放弦をその「れ」と同じに調弦した。私はこの時ほど「み」という音階を恐れたことはない。できれば「み」なんてものはこの世になかった音階で、地底人の中でもエクゼクティブ階級の地底人にしか知られていない未知の音階であるべきだとさえ思った。青はそれでもついに言い放った「みぃぃぃぃいいいっ!」その「み」は放たれた瞬間にその一つ前の「れ」との関連性を全方向から否定し崩壊させた。青の「み」はさらに高い音階に変化し、ほぼ裏声で「みぃぃぃぃいいいっ!みーっ!!」と叫び声のように裏返り、極めてヒステリックであり、サディスティックでもあった。さらに悪いことに「み」の押弦ポジションは同じ4弦の2フレットであった。先ほどせっかく調弦した4弦の「れ」は一瞬で消し去られ、そこには新たな4弦の「み」が存在していた。同じく4弦の「ふぁ」についてはここに書くまでもあるまい。そしてそのあと青春のおじさん中学生が披露してくれた自作のソングは強烈なスカム感を放ち、その異様なまでの浮遊感、匂い立つようなキムチ感、ゴルゴンゾーラチーズのような青臭さ感、が全て一体となって、私の記憶の残像となって今も私を苦しめているのだ!あーなんという憂鬱!こんなことなら13歳の夏に「サンディエゴ」を作詞作曲するべきではなかったのだ!



わたしの「ど」、あなたの「ふぁ、み、れ、ど」、みんなちがってみんないい。


























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